ヨーロッパの防犯カメラの話

ヨーロッパを周遊してきました。具体的には、ウィーン、アムステルダム、ロンドン、スイス複数都市、フィレンツェ、ローマを回ってきました。

旅行自体の感想はさておき、ヨーロッパ各国では、防犯カメラを設置していることについてどのような表示がされているか写真を撮ってきたので、まとめたいと思います。

 

個人情報、データプライバシー業界は、やはりGDPRとUKGDPRが最先端なので(果たしてその方向性が正しいのかはさておき…とてもさておく必要があると思いますが)、EDPB(EUにおける個人情報保護委員会に近いような組織)や、ICO(英国)の出しているガイドラインやオピニオンが参考にされています。

特に、EDPB”Guidelines 3/2019 on processing of personal data through video device”には、CCTVを利用する際の望ましい表示として例を示しています。しかし、本当にこんな細かい表示をEU各国で行っているのかは非常に疑問でした。そこで、今回ヨーロッパを旅行するにあたり目についた範囲でどういう対応をしているのか写真を撮ってきました。

(なお、途中で防犯カメラのことなんて忘れてしまうくらいの体調不良を起こしており、国によって全く写真がありません。)

 

なお、日本では、防犯カメラを利用するとき、防犯カメラを設置した外観から防犯目的で撮影されていることが明らかな場合は、防犯カメラで撮影をしていることの表示をする必要はありません。ただし、外観から防犯カメラであることがわからないような場合には、防犯カメラによって撮影がされていることの表示などをしておく必要があります。

また、防犯カメラに顔識別機能がついている場合は、顔識別機能が付いた防犯カメラを設置しているということを、施設の入り口などに分かりやすく掲示しておくことが望ましいと考えられています。

 

なお、今回の旅行で撮影した写真は、いずれも単なる防犯カメラについての表示であり、顔識別機能がついているか否かはわかりません。顔識別機能がついていない防犯カメラでも以下のような表示がされていると思われます。

また、旅行の思い出として紹介しているに過ぎないため、具体的に誰がどのように防犯カメラを設置しているかの裏取や、設置者が民間か行政か、GDPRなどとの関係性についてきちんと検討しているわけではありませんのでご容赦ください。

 

〇ウィーン(オーストリア

アムステルダム国際空港の駅

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防犯カメラのアイコンのみ。設置者などの情報はありません。

・国会議事堂

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左側に、防犯カメラのアイコン、設置者と住所(?)、設置者のWebサイトのURLが記載されています。右側は、このあたり一帯の地図で防犯カメラとは関係のない表示だと思われます。

 

なお、写真はありませんが、民間事業者であるホテルの外壁にも国会議事堂に掲示されていた表示と同様の表示が掲示されていました。

・カフェザッハーの入り口ドア

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分かりにくいですが、防犯カメラのアイコンと、”VIDEO SURVEILANCE”という文言が記載されているようです。お店の入り口ドアなので、設置者がカフェザッハー(ホテルザッハー)であることは明らかということになるでしょうか。連絡先などはありませんでした。

 

全体として、国会議事堂に設置されているようなタイプの、防犯カメラのアイコンと、設置者、連絡先まで記載されているような表示が複数ありました。オーストリアの執行状況についてあまり詳しくないのですが、ここまできちんと対応していることに驚きました。

また、防犯カメラを設置していることの表示を掲示することで、その表示を見た一般の方が驚く(ここはそんなに犯罪が多いのかや、監視されているのかと抵抗感をもったりですね)という意見もありますが、あまりにも街中に防犯カメラについての細かい表示があると慣れてきてなんとも思わなくなりました。

 

アムステルダム(オランダ)

体調不良と、ウィーンと大して状況が変わらなかったこともあり、写真がありません…。

 

〇ロンドン(英国)

まず、写真はありませんが、ヴィクトリア駅の防犯カメラがすごかったです。一つの柱ごと360度方向に10個近く防犯カメラが設置されていました。しかし、防犯カメラの表示はぱっと見た限りでは見当たりませんでした(20キロ近いスーツケースを引きずり、スリに怯えながら足早に通過しただけなので、表示を見つけるほど冷静でいられなかっただけという可能性もあります笑)。

・ホテルの近所の路上にあった防犯カメラ

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Images are being recorded and monitored for the purpose of crime prevention and detection.

This scheme is controlled by △△ Tel: xxx xxxx xxxx

との記載と防犯カメラのアイコンがあります。

犯罪予防目的であることと、設置者、連絡先(電話番号)が記載されています。おそらく設置者は民間人だと思われます(事業者かどうかはわかりません)。

・道路脇に立っている標識

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カメラ(?)っぽいアイコンだけのものと、Traffic enforcement camerasと記載されているもの、Bus Lane Camerasと記載されているものがあります。

当初、アイコンだけの標識をみて、すごくカメラっぽいけど何だろうと思っていたところ、Bus Lane Camerasと書かれたものと、バスに外向きのカメラが設置されていることに気づき、恐らくこのバスについているカメラのことを指しているのではないかと思いました。しかし、Traffic enforcement camerasというものもあることを考えると、バスの他にもカメラが設置されていたのかもしれません。

(後で調べたところ、Traffic enforcement camerasには、スピード違反を取り締まるカメラや、ナンバープレートを読み込んで免停情報?などと紐づけるシステム、信号無視を取り締まるカメラなどがあるようです。バスの外側についているカメラはあんまり関係なさそう。ある程度英国の交通違反取締事情について知らないと、表示だけではなんのこっちゃわかりませんね。)

・本屋Waterstones

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入り口ドアの下の方に掲示してあります。防犯カメラのアイコンがあるほか、何が書いてあるのか写真から読み取れません…(日没が迫る中GDPRコンメンタールが売っている本屋さんを必死で探していたので、ちゃんと写真を撮れていませんでした…)

・路上に設置されていた標識

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上の道路脇とは別に設置されている標識もありました。思いっきりenforcementと書いてあることに反応して写真を撮ったような気がします。

おしゃれな防犯カメラのアイコンと目的、設置者、連絡先(電話番号)が記載されているようです。設置者は行政でしょうか。

 

なお、イギリスの写真をいろいろと紹介していますが、ウィーンやアムステルダムに比べるとあまり表示がないように感じました。

イギリスの比較的きちんとした表示は、防犯カメラのアイコン、目的、設置者、連絡先が記載されていることが多く、個人的にはこれぐらいがちょうどいいのではないかと思います。これ以上情報量が増えてもかえって、パッと見て何が書いてあるかよくわからないのではないかと思います。

 

〇スイスいろいろ

(※スイスにはThe Federal Act on Data Protection of 19 June 1992があります。

チューリッヒのマック

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入り口にいろいろな表示がされている中に防犯カメラについての記載も混ざっていました。設置者がマックであることは明示されていませんが、どう考えても明らかですね。それ以外はドイツ語(多分)が読めないのでわかりません。

チューリッヒにはこれ以外にももちろん防犯カメラについての表示はあったように思いますが、設置者や連絡先を詳細に書き込んだような目につくものはなかったように思います。GDPRが適用されている地域に比べると格段に表示も少なく、表示の内容も防犯カメラが設置されているということだけという感覚でした。

・インターラーケンの船乗り場の表示

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これも、防犯カメラのアイコンだけです。なおインターラーケンは、人口5000人ぐらいの観光地です。雰囲気は日本の温泉地です。愛の不時着に出てくるらしく、めちゃくちゃ韓国人がいました。あとスーパーに大量に辛ラーメンが売っている。

・私有地の入り口(インターラーケン)
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このパターンが多かったです。私有地の入り口にPRIVATと防犯カメラのアイコンがあるパターン。これは、日本にもよくある、防犯カメラ作動中ってステッカーを貼っているのと同様、防犯目的で掲示してあるものだと思われます。

 

スイスは、全体的にそもそも防犯カメラの表示自体が少なく、あっても防犯カメラのアイコンだけという感じでした。まぁ、GDPRの適用ないですしね。

スイスってEU的価値観をどれぐらい受けるものなのでしょうか。そんなこというとそもそもEU加盟国のみなさんは、心の底からプライバシーは大事だと思って、わざわざ防犯カメラを設置するためにこんなに丁重な看板を立ててくれているのか、GDPRがうるさいからやってあげているのか、疑問でしかないです。

〇イタリア色々

・ティラノの総菜屋
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ティラノは、スイスとイタリアの国境沿いにある人口8800人の小さな町です。このお店は、恐らく個人でやっているお惣菜屋ではないかと思われます。

Google翻訳によれば、「セキュリティ上の理由からビデオ監視の対象となるエリア」と書かれているようです。その下は、おそらく、GDPR or/and イタリアのPersonal data protection code 13条に基づくinformの義務のことがかかれていると思われますが、ちゃんと映せてないですね。その場で急いでぱっと撮って、あとから肝心な部分がちゃんと撮れていない問題が多発しています…。防犯カメラの写真を撮っている人は怪しい。

・ティラノ駅
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ティラノの駅。防犯カメラのアイコンと、右側に警備員(?)がモニタリングしている感あふれる絵がついています。

・電車内
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Deepl先生によると「登録は、セキュリティと会社資産の保護を目的として、Trenord S.r.l.によって実施されます。個人情報保護法政令第196/2003号)の第13条。全文は www.trenord.it でご覧いただけます。」と書かれているようです。Personal data protection code 13条の部分は、どういう言及の仕方をしているのかよくわかりません。あと、またDeepl先生は、registrazioneを登録と訳していますが、記録という意味もあるようです。登録(つまり顔識別をしている可能性がある。)と記録(単に映像を撮影しているだけ?)では防犯カメラの機能として大違いなのですが、どっちなんでしょう。

何故か、Trenordのサイトにアクセスできません…。なんで。

フィレンツェの雑貨屋

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このテンプレは、目的と設置者が空欄になっていると思われるのですが、肝心なその部分が埋められていないまま掲示されていました。防犯カメラ設置するときはなんか掲示しなきゃならないらしい!せやテンプレがあるからこれ貼っとこ!!!!という現地事業者のリアルな感じがありますね。

フィレンツェのスーパー
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スーパーの入口ドアにアイコンだけあるパターン。イタリアはこのパターンあまり見かけませんでした。

・ローマのどこか(多分パンテオン???)
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おなじみのやつ

・ローマの銀行
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イタリアの掲示はほとんど同じテンプレが使われていたのですが、ちょっと違うものがあったので写真を撮りました。

・ローマのマルケッルス劇場(観光地)の入口(多分)
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一応、空欄は正しく埋められているような…?でも落書きがされていました。

・ローマの最高裁
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最高裁なのに、何らかの空欄っぽいところが埋まってなくて笑ってしまったやつ。

 

イタリアは、わりと同じようなテンプレが使われていることが多く、何等かの公的機関がテンプレを公表しているんじゃないかと思いました。調べてみましたが、DPAが公表しているのは、EDPBガイドラインが公表しているもののイタリア語バージョンのようです(Videosorveglianza - Garante Privacy)。じゃあこの標識はいったいどこからやってきたんだ…。ちょっともう疲れてきたので、また今度調べます…。

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ちなみに英国やスイスに比べれば防犯カメラの表示がされているところが多かったですが、実際町はずれの方にいってみると、がっつり防犯カメラは設置されているけど、表示なんてないところがたくさんありました。まあこんなもんですね。

 

〇まとめ

防犯カメラを設置していることをアナウンスすることによる防犯効果があると言われているので、日本にも防犯カメラ作動中っていう掲示自体はよくあると思います。防犯カメラを設置する人の自然な感情として、防犯効果を高めるために、防犯カメラを設置してます!ということまでは自主的に掲示する可能性は国を問わずあるんだろうなと。そのうえで設置者が誰で、連絡先がどうっていうのはプライバシーの観点から掲示されているもので、法律か何かで強制されないかぎり掲示することはないんだろうなと思いました。

日本は、一応PPCが防犯カメラについて文書を公表したわけですが、今後どうなるでしょうね。事業者にも弁護士にも文書の存在を認識されていない気がしますが…。

〇感想

・旅行の感想で最初に出てくるのがこれなのは、なんというか職業病というか、

・防犯カメラの写真を熱心に撮影するアジア人、確実に不審者データベースに登録されている

・わたしの2年間の仕事にどんな意味があったのかと悩み始める